2005年05月10日 山形旅行記 part2
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賞味期限切れと知りつつ飲んだ牛乳に当たって、苦しい思いをしているtibです。確か先月も似たようなことがあったはずなのに、いつまで経っても学習しないですねぇ...。
さて、前回に引き続き、山形旅行記です。
山寺を降りた私たちは、一路この日の宿へと向かいました。私は、あっちだこっちだ、と指示されるがまま車を運転していただけだったのですが、着いたのはなにやら身分不相応な、老舗の香り漂う豪華なホテルでした。ロビーに入った瞬間、浮いているのが解るくらいでした。
私「な、なんでまたこんなすごいところ取ったの? 寂れた温泉宿に行こう、って言ってなかったっけ?」
友人「知らない、知らない。仕事で知り合った人から『山形へ行くんですかぁ? だったらうちの実家が天童市で宿やってるんで泊まってってくださいよぉ』って言われたから、それに乗っかっただけだもん。本当に今の今まで『寂れた温泉宿』だと思ってた...。」
去年の西表島の時に泊まったような所に泊まり慣れている私にとって、まさに別世界でした。あまりに別世界過ぎてくつろげたんだかくつろげなかったんだか、よく解りませんでした。
で、翌日。ホテルのすぐ近くにある舞鶴山で行われる「人間将棋」を見に行きました。なんと今年で50回を数える、歴史あるイベントだったんですね。陣羽織を着たプロの棋士が、長刀隊(歩兵)と鎧甲に身を包んだ槍部隊(香車〜王将)を動かしながら将棋を指すというものです。プロの棋士といってもただの棋士じゃありません。ここ天童市で争われる「竜王」のタイトルを持っている渡辺明氏がでてくるんです。横にはこれまたプロ棋士による解説もついています。
歴史あるイベントだけあって(?)、結構いろんな演出が施されています。プロ同士の対局なので真面目な(ある意味見ているだけだと退屈な)モノかと思っていたらとんでもない。対局前のアトラクションなんて地元の方々による和太鼓の演奏やら、テレビゲームのオープニングを思わせるような殺陣やら、駒役の方々も殺陣に参加してきて、将棋はただのゲームではなく、戦場を盤上に置き換えた戦なんだ、と雰囲気を盛り上げてくれます。ただ、肝心の棋士達が、普段着慣れていない格好で普段言い慣れない言葉遣いで見栄を切ったりするチープな演技が私をただの一観客に引き戻してくれる感じです。対局が始まると、解説の方がいろいろ説明してくれます。
解説者「えぇ、今日は人間将棋ということでね、普段の対局とはちょっと雰囲気の違うモノがあるんですけれども。...なんと言いますか、『人間将棋のマナー』ってモノがありまして、せっかく一般公募で集まってくださった駒役の方々が1回も動かしてもらえないまま対局が終わってしまうのはかわいそうなんで、『どの駒も最低1回は動かすようにしましょう』っていうのが暗黙のルールとしてあるんですが、...ちょっとちょっと、こう言ってる傍からこの動きは『穴熊』狙いですか?」
竜王「えぇぃ、やかましいわ。ショーより勝負が大事じゃ!!」
この解説者もプロ棋士ですが、こちらはずいぶん饒舌です。また、もうひとつの暗黙のルールとして、一般の観客が見ている前でやるので、長考などせずにテンポよく打つというのがあるそうで、対極の展開が速くて見ていて面白いです。...それにしても駒役って一般公募だったんですね。私ももう少し早く知っていたら応募していたかもしれません。
解説者「さぁ、ここはちょっと面白い展開になってきましたね。例えばこんな手や、こんな手や、...こんな手も考えられますけど、ここは『いかにもプロ!!』って感じの手を見せてくれると思いますよ、さぁ、どうぞ!!」
山崎六段「...プレッシャーをかけるでないわっ!!」
竜王「...投了してもいいぞ?」
山崎六段「投了なぞせぬわっ、『これぞプロ』の一手を見せてくれようぞ。4五歩じゃっ!!」
解説者「ほう、これは『さすがプロ』って感じの手ですねぇ。こういう手を専門用語で『突き捨て』っていうんですけれども、要するに捨て駒を使って自分に有利な局面を作り出していくんテクニックなんですね。...これ、いつもの駒でやっているときはいいんですけど、人間将棋でこれをやるとちょっと捨て駒役の方がかわいそうですよね。...どう思います? あなた捨てられちゃうんですよ!?」
竜王「心配するでない。取ったらすぐに貼って、今度はあなたを捨てたあやつに向かって攻めさせてやるからの。」
解説者「あぁ、優しいですねぇ、竜王は。...でもココが人間将棋の怖いところで、駒に妙に入れ込んじゃったりして全体が見えなくなっちゃうと、素人でもやらないような『二歩』で負けちゃう、なんて事もありますからねぇ。...いや、本当に過去何回かあったんですよ。」
竜王「その内の1回はワシじゃぁっ!!」
解説者「...あ、そうだったんですか。それは知りませんでした。」
面白いもので、普通の駒での将棋だとただお互いの駒が向き合っているだけですが、これが実際に長刀や槍を持った人たちとなると向かい合わせに座っているだけでも緊迫した空気が流れてくるものです。対局が進んでくると駒の動きも激しくなってきます。貼られた駒がすぐに取られてまたすぐに貼られ...と、大忙しな中、たった1人だけ対局開始から1度も動かされていない駒がいました。あまりに長いこと放って置かれているのでつらいのでしょう。背中は丸まって、見るからに退屈そうです。まだ対局中なのにすでに敗残兵に見えてしまいます。そこへ相手の駒がドドーンと攻めてきてその駒は取られてしまいました。
解説者「あー、よかったですねぇ。これで全部の駒が動きましたよ。実は昨日は私がやったんですけれども、どうしても動かせなかった駒が3人もいたんで申し訳なく思っていたんです。それに比べると、さすが竜王ですね。ちゃんと全員動かしてくれました。」
...うーん、これは動かしてもらったというよりは「ただ取られただけ」なんですけど。棋譜にはこの人の動きは記録されないんでしょ? それでも解説者の方は大喜びです。まぁ、そういうものなんでしょう。